マインドフルネス的思考

マインドフルネスとは、➀人、物事、世界のあるがままの事実、現実、状態に気づくこと、②価値判断しないこと、だと言われる。これを思想・哲学・推し進めると、マインドフルネスのルーツでもある仏教の「悟り」のような宗教性を帯びるのであろうが、マインドフルネス自体は思想・哲学・世界観というよりは、ある種の技術 Artに近い。マインドフルネス的な思考に基づいて、価値判断せずに、物事のあるがままの真実に気づいた上で、どう行動するのかは、それぞれの判断に委ねられているからだ。

世界のあるがままの真実、現実、事実に気づいていくために、価値判断しないことが重要なのは、人が見たいものを見てしまう性質を持っているがゆえだ。これは良い、これは悪い、これは好き、これは嫌だと言った、感情、思考の価値判断が入り込んだ途端、人の現実は歪み始める。否定、逃避、乖離、脳がありとあらゆる手段を使って、現実を歪めようとするのだ。それゆえ、物事をそれが存在している状態として把握したいなら[Looking at things as they are]、ひとまず価値判断することを置いておくことが大切なのである。

「とりあえずpending 留保して、先に進みましょう」

学生時代、サンスクリット語の先生が授業中、よく口にしていた。ペンディングということばが聞きなれなかったので、よく覚えている。サンスクリット語は、古代ギリシャ語などと同様、関係詞などを使って、延々に文が続いていくので、とりあえず先に進まないと、文や単語の意味が決まらないということがあるのだ。とりあえずペンディングして、先に進んで情報を集めてから、意味を最後に確定する。ペンディングペンディング。先生は口ずさんでいた。

私たちの生き方もそういうものかもしれない。あまりにも早く拙速に価値判断したり、結論を出してしまうと、必要な情報が集まる前に答えを出してしまって、意味を取り違えてしまうことがある。ひとまず、価値判断はわきにおいて、現実を見ること、観察すること、眺めることに集中する。そして、十分に現実が見えてきた後でどうするか考える。そんな「ペンディングする生き方」をマインドフルネス的思考は励ましてくれるのかもしれない。